伝統のあそび、組香(くみこう)

貴人の装いをまとった日本人形の細部。色あざやかな装束は、かたちと文様、生地と重ねがはっきりと対比している

茶の湯はご存じの方が多いと思います。では、お香もまた、茶や生け花と同じくひとつの芸であることはご存じでしたか。

日本の古い香の伝統、すなわち香道(こうどう)には、深い文化的な意味があります。平安時代にはじまり、またたく間に貴族たちの愛するなぐさめとなり、香りを味わうことそのものが芸にまで高められました。香道の中心にあるのが、組香(くみこう)と呼ばれる香のあそびです。このあそびでは、お香を「嗅ぐ」のではなく「聞く」といいます。香りそのものだけでなく、そこから浮かぶ気持ちや思い出にまで耳をすます。そういう、心をととのえるひとときです。



香道、香を聞くということ

香道では、お香をただかぐのではありません。「聞く」のです。この言いまわしには、この道が大切にする心くばりと心のひらきがあらわれています。歴史をうつしたもの、和歌にちなんだもの、季節をうたったもの。どのあそびも、自然とのつながりを深めてくれます。一座ひと座が、かすかな香りのちがいに耳をすまし、しずかな内側へといざなうためのおさそいなのです。

香道は勝ち負けを争うものではありません。勝者も敗者もいません。よい香りをだれかと分かちあう、そのしんぷるな美しさをよろこぶものです。ここからは、ご家族やお友だちと楽しめるあそびをいくつかご紹介します。

畳の上で正座する着物姿の男女。その前で、もうひとりの着物姿の女性が香の儀式をとりおこなっている



三種香(さんしゅこう)

もっともわかりやすい香のあそびのひとつです。三つの沈香が出され、それぞれが同じか、ちがうかをあてます。

1. 三つの沈香をていねいにととのえ、小さな包みに入れます。
2. 灰をちゃんともりつけた香炉をめぐらせ、お客さまがひとりずつ三つの香木を「聞いて」いきます。炭をそえると、香りがすなおに立ちのぼります。
3. 香りが似ているか、ちがうかを見定め、記録の紙にしるします。そののち、香をつかさどる香元(こうもと)が答えを明かします。



日本三景をめぐる香

このあそびでは、香りの力で名所へといざなわれます。三つの沈香が、松島、天橋立、厳島といった場所をあらわします。さらに四つめの香木があり、これはその地へと運んでくれる船をあらわします。

1. 香元が三つの場所を告げ、それぞれの沈香を試しにお示しします。
2. お客さまは、どの香木かを知らされぬまま、それぞれの香りをあてていきます。
3. あてた数によって、その地を晴れわたる天気でながめたか、霧のなかでかすんで見たかが決まる、とされています。

香灰の入った器に、葉のかたちの練香が三つのせられている



六国(りっこく)の旅

香に親しんだ方には、六国の旅を。六国と呼ばれる六種類の沈香を使う、手ごたえのあるあそびです。それぞれに独特の持ち味があり、あそびではその香りを古くからの説明と結びつけていきます。

1. 六つのちがう沈香をととのえ、順にめぐらせます。
2. お客さまはそれぞれの香りを「聞き」、六つの説明のどれにあたるかを考えます。
3. 香りがひらいていくにつれ、一座は歴史と伝統をめぐる旅にでて、昔の人のいとなみにふれていきます。


香道とそのあそびは、速度をゆるめて香りの世界をあじわう、またとないひとときをくれます。三種香のしんぷるな美しさを楽しむのも、六国の旅にいどむのも、どちらも日本の香の伝統の、かすかな美しさを味わうおさそいです。

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